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ウスゲコバノイシカグマ

7月8日、ヒグラシの鳴き声もやっとあちこちで聴かれるようになりました。昨年度は8日に

ミンミンゼミ、約1週間後の16日にアブラゼミも初鳴きを観測しています。ニイニイゼミと

ヒメハルゼミに始まり、ヒグラシが鳴いて、その次はいったい誰が口火を切るでしょうか?

さて先日、調査の仕事で片倉方面にある民有緑地を歩いてきました。この場所を訪れるのは

初めてではありませんが、気になる場所があったので少し無理をして急斜面を下りました。

その一角は小さな谷の起点で、湧水がわずかに染み出しており、その周囲にシダ植物などが

まとまって生えているのでした。シダの群れの中に、ひときわ繊細で美しい形の葉っぱが

目に止まりました。ウスゲコバノイシカグマです。ただですら区別の難しいシダ植物なのに

名前もまるで呪文のようですね。近年、南多摩エリアで増えつつあるコバノイシカグマと

いう暖地性のシダがあり、それにごく近縁の種類です。コバノイシカグマとは毛の少なさや

葉形の違いなどから区別できますが、独立種とするかコバノイシカグマの品種とするかは

見解が分かれており、微妙な立ち位置にあります。分類学的な話はこれくらいにしておき、

名前について。人間の世界では良い意味で使われることがまず無い“ウスゲ(薄毛)”という

表現ですが、植物界では決して珍しくありません。ウスゲチョウジタデ、ウスゲタマブキ、

ウスゲサンカクヅル、ウスゲトダシバ、ウスゲミヤマシケシダ、ウスゲヤマザクラなどが

思い付きます。また、種間雑種のウスゲメナモミも以前にご紹介しました。ウスゲメナモミ

植物では、毛の量や有無が重要な識別形質になっているケースも多いので、“ウスゲ”や

“ケブカ”といった表現がしばしば使われるのです。面白いのは“ウスゲ”を冠したものの

中には、「本家が多毛なのに対しての薄毛」の場合と「本家が無毛なのに対しての薄毛」の

場合との2つのパターンがある点です。ウスゲコバノイシカグマの場合は前者となります。

反対に、例えばウスゲヤマザクラは本来は無毛のヤマザクラにいくらか毛が見られるもの。

どちらのパターンにしろ、微妙な違いを表現するのに“ウスゲ”ほど便利な表現はないかも

しれませんね。ともかく、普通の人にとってはどうでも良いであろう植物の毛の生え方や

表現について、こうやって思いを巡らせる人々がいるということ自体を面白がって下さい。

この日の調査で見かけた動植物です。ヤマイヌワラビ、バケヌカボ、ヒメドコロ、キウイ、

ハナイカダ、ムクロジ、クズノチビタマムシ、キイロクビナガハムシ、アカボシゴマダラ。

都市部の緑地や里山を歩いていると、必ずといっていいほど野生化したキウイを見ます。

小鳥が運ぶのだと思いますが、林の中ですくすく育つキウイはやはり違和感がありますね。

少し立ち止まるだけで汗が噴き出すような暑さの中でしたが、有意義な調査ができました。

おまけ。ホンドタヌキの食痕(歯形付きのマヨネーズ容器)を拾いました。今までに拾った中

ではトップクラスのボロボロさです。これほど噛み尽くされ(遊び尽くされ)ている食痕も

逆に珍しいので持って帰ってきました笑。自然館の「タヌマヨコレクション」に追加です!

 
 
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