5月13日、植物好きの私がここ数年、特に注目している雑草について取り上げます。(長文)
それは、こちらの小さな小さな草花。ツメクサの仲間です。※写真はキヌイトツメクサ。
ツメクサはナデシコ科の植物。漢字で「爪草」と書くとおり、葉が鳥の爪のごとく細く
鋭いのが特徴で、同じような場所に生えるコハコベやネバリノミノツヅリとの区別点にも
なっています。そしてこの仲間は、どこにでも生えているもっとも身近な雑草の一つです。
おそらく皆さんも、日常の中で気付かずに踏んづけて歩いているはずです。
上の写真3枚はこの仲間の基本となるツメクサです。きっと、庭や植え込みの下などに
生えているのを見かけたことがあるのではないでしょうか?5枚の花びらと萼を持ち、
細く鋭い葉が対になって付いています。線が細くて全体に繊細な感じがしますね。
ところで、2008年頃から、住宅地の道ばたやアスファルトの隙間などで、
ちょっと違う雰囲気のツメクサを見かける機会が増えました。(下の写真3枚)
茎が太く、葉にも厚みがあります。花や萼の様子はツメクサと特に変わりありません。
ツメクサが強い乾燥や日照、踏み付けなどに適応した型とも考えられましたが、
種子を調べてみると、これらの多くは別種のハマツメクサであることがわかってきました。
ロゼット状の根出葉で越冬し、多年草的な生活史を持つことも、本種の特徴といえます。
本来は海岸などに自生するはずのハマツメクサが、いつの間にか内陸の造成地や舗装路に
分布を広げていたのです。土とともに他所から運ばれて定着し、広がったのでしょうか。
いずれにしても、その後の10年は密かにハマツメクサの躍進が見られ、ニュータウン域では
ツメクサよりもむしろよく見られる普通種になっています。
※全ての個体で種子を調べたわけではないので、中には、ツメクサそのものや、ツメクサと
ハマツメクサの中間型とされるオツメクサやミチバタツメクサが含まれるかもしれません。
一方その頃、近隣の蓮生寺公園(門前広場)で一風変わったツメクサ類が見つかりました。
花びらは無く、開花時には丸みのある緑色の萼片4枚がパカッと開くものです。
このツメクサ類の正体は、外来種のアライトツメクサ。
全体に毛が無いことや、茎が短く横に這うこと、花が単生することなどもポイントです。
ちなみに、同所には現在も生育していますが、由木周辺での分布はごく限られています。
2020年、別所一丁目の歩道上でアライトツメクサのように花びらが無く、萼片4枚が開いて
咲いているツメクサ類に気が付きました。しかし、アライトツメクサと違って豪華な印象。
花は枝を分けて複数付き、茎には腺毛が見られることから、イトツメクサと判明しました。
翌2021年には別所エリアを中心に分布がやや拡大、さらに2022年以降はあちこちで普通に
見られるようになり、場所によってはツメクサやハマツメクサを圧倒しています。
ここまで短期間で広がるとは思ってもみなかったので、とても驚きました。
この傾向は多摩ニュータウンに限ったことではないようで、他の地域でも
歩道上が“イトツメクサだらけ”、という光景に遭遇することがあります。
なお、長池公園では今年、長池見附橋を経由して姿池の周囲にまで分布を広げてきました。
イトツメクサより少し遅れて、2021年に秋葉台公園で初めて確認して以降、
爆発的ともいえるスピードで広がっているのが、こちらのキヌイトツメクサです。
5枚の花びらと萼片があるのはツメクサやハマツメクサと一緒ですが、花は4月上旬に咲き、
4月半ばにはあっという間に結実してしまいます。茎葉が他種よりもさらに細く、
開花期には茎の節々が濃紫色に色付くのも特徴です。細くて赤黒いツメクサという感じ。
左がハマツメクサで右がキヌイトツメクサ。茎葉の太さが全然違うのがわかると思います。
そしてなんといっても最大の特徴は、花が枯れる頃に茎全体が赤紫色へと変色すること。
ツメクサなどが咲いている時期には、すでに花が枯れて写真のような茎が真っ赤な状態に
なっていますので、花の時期よりも結実期の今のほうが気が付きやすいでしょう。
果実が萼片から突き出ること、萼片の下にぷっくりと小さな膨らみがあることも特徴です。
また、萼片は蕾から結実に至るまでの間、終始開くことはありません。
2023年現在までに、最初に見つかった秋葉台公園以外にも、長池公園(姿池周辺)をはじめ、
蓮生寺公園(門前広場)、上柚木郷戸公園周辺の路傍、松木・別所の路傍など各地で
相次いで発見していますが、この先も分布域の拡大が予想されます。
ということで今後は、彗星の如く現れたイトツメクサとキヌイトツメクサという
二大勢力の動向から目が離せません。皆さんからの情報提供もぜひお待ちしています。
さて、万を持して(?)、由木周辺のツメクサ類について紹介することができました。
いかんせんマニアックなので、話題として取り上げることに躊躇もありましたが、
決して珍しい植物ではなく、どこにでもある植物の話なのです。
身近な植物をじっくり、それも継続的に見ることの面白さを感じてもらえたら嬉しいです!