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豊かな一日

7月16日、再び猛暑日となり、予定されていた昆虫観察のイベントは中止になりました。

楽しみにして下さっていた皆さまには、大変申し訳ない気持ちでいっぱいですが、

背に腹は代えられません。特に開催場所として予定していた材木置き場は、アスファルトが

ホットプレート状態になっていました。熱中症防止のための判断、どうかご理解下さい。


こんな暑い日に来園者もほとんどいないだろうと高を括っていたのですが、大きな間違い。

常連から久しぶりの方まで、お客さんとの交流の中で嬉しい出来事がいくつもありました。

はるばる遠方からいらっしゃったという親子連れ。お子さんが憧れている、ある昆虫を

探しているとのこと。ちょっとただならぬ熱意を感じました。子どもの本気を応援するのが

私の仕事ですので、ここは一つ・・と熱中症対策を万全にして、園内を一緒に歩きました。

もう1組、野鳥の調査などでいつもお世話になっているご家族も合流してくれました。

まずは日陰の手すりなどをチェックしてウォーミングアップ。このブログではおなじみ、

ホウネンタワラチビアメバチの繭や、水牛のような姿のウシカメムシが見つかりました。

ヤマグワの葉裏にはエゴヒゲナガゾウムシが何匹も止まって休んでいました。

これまで、エゴノキの実に集まっているのはたびたび見かけていましたが、猛暑日の日中、

まさか揃いも揃ってヤマグワの葉裏で涼んでいるなんて、思いもしませんでした!

こういう小さな発見の一つ一つが、日々の観察をより楽しくしてくれます。

さて、お目当ての昆虫ですが、苦労の末に無事に見ることができました。

出会えた瞬間の歓喜もさることながら、その後しばらく、恍惚状態のようになっている

お子さんと、自分ごとのように喜ぶご両親の姿を見て、私のほうが感動してしまいました。

1匹の小さな生き物が、1人の少年の心を動かす瞬間を目の当たりにして、その場に

居合わせた誰もが幸せな気持ちになったに違いありません。自然の力は本当に偉大ですね!

道中、足もとを、サトジガバチが大きなガの幼虫を抱きかかえて横断していきました。

“抱き枕”なんて可愛いものではありません。糞を頼りにガの幼虫を見つけて捕らえ、

麻酔をかけて巣穴に運び込んでいるところなのです。運び込んだガの幼虫に産卵し、孵った

サトジガバチの幼虫はこれをたらふく食べて成長します。ガの幼虫は成す術もありません。

個人的にお気に入りのシジミチョウ、トラフシジミ(夏型)も姿を見せてくれました。

気付けばすっかり仲良くなっていた初対面どうしの子どもたち。自然は人をも繋ぐのです。


帰り道、見覚えのある三人組に遭遇。非常勤講師を務める専門学校の卒業生でした。

聞けば、仕事の休みを合わせてわざわざ会いに来てくれたのだそうです。

みんな、それぞれ別の道に進み、今では立派に社会で活躍しているとのこと。

長池公園での実習を昨日のことのように懐かしみながら、立ち話に花が咲きました。

すっかり遅くなって自然館に戻ると、植物探求に熱心な常連のご婦人4人衆がお出迎え。

「こんな暑い日に水草観察ですか?まったく無理しちゃだめですよ~!」なんて、

私はツッコミを入れつつも、内心は嬉しいのです。植物が人を呼び、植物が縁を繋ぐ。

いつもそんなことを体現して教えて下さる、話していて本当に楽しい面々です。

短い時間でしたが、今日もありがとうございました。


私が公園の仕事を通じて、いつも大切にしていることの一つに「豊かさ」があります。

自然の豊かさはもちろん、賑わいや繋がりといった、人の豊かさも大事な視点です。

さらには、一人一人の心まで豊かにできたら、これ以上のことはありません。

今日、私はそれら3つ全ての豊かさを感じることができました。

草刈りをしたわけでも、書類を作ったわけでもありませんが、満たされています。

もしかすると、公園は私自身の豊かさを育ててくれる場所なのかもしれません(^^)

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